相続登記の期限と義務化はいつから?不動産・土地相続への影響を弁護士が解説
「所有者不明土地とは,広い意味においては,不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず,又は判明しても連絡がつかない土地を指す」とされています。
平成29年度に地籍調査が実施された62万9188筆の土地について調査が行われた結果では,不動産登記簿のみでは所有者等の所在を確認することができない土地の割合は約22.2%であり,そのうち
①相続による所有権の移転の登記がされていないものの割合はそのうちの約65.5%,
②住所の変更の登記がされていないものの割合は約33.6%, ③売買・交換等による所有権の移転の登記がされていないものの割合は約1.0% ※国土交通省「平成29年度地籍調査における土地所有者等に関する調査」 |
であったとされています(民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明162頁)。
相続登記が長期間にわたって何代もなされないことにより、土地の権利関係が多数の相続人に分散し、所有者探索の過大な負担が生じたり、所有者不明土地の利用、管理に多大な支障が生じたりします。これが所有者不明土地問題の根幹です。
そこで、所有者不明土地の発生を防止すべく、相続登記と住所変更登記の義務化、所有者の連絡先情報の把握のための法案が、2021年4月23日成立しました(交付は同月28日)。具体的な施行日は未定ですが、問題点ごとに施行日が異なりますので該当箇所において説明します。
今回のポイントは下記のとおりです。
① 相続による不動産取得を知ったから3年以内に手続きを相続登記をしないと10万円以下の過料の対象となる
② 住所変更登記も義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象になる
③ 相続人申告登記や義務化とセットで登記権利者のみの単独申請を認めるなど登記手続きの簡略化が予定されている
④ 不動産の所有権移転登記時に生年月日や海外居住者の連絡先の情報提供など連絡先確認のための情報の情報の提供が必要となる
⑤ 所有している不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書)を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できる
目次
登記義務化の3つのポイント
相続登記と住所変更登記を義務化する不動産登記法の改正が2021年4月23日成立しました(交付は同月28日)。
所有者の情報を正確に反映させ、連絡をとれるようにするための方策として、不動産登記の義務化に関連するポイントは下記のとおりです。
① 相続登記の義務化の改正
② 住所変更登記の義務化の改正
③ 法務局への所有者の生年月日、海外居住者の連絡先の提供
以下、それぞれについて解説していきます。
相続登記の義務化の改正ポイント
相続登記の義務化に伴う改正ポイントは下記のとおりです。
1. 相続(相続人が遺贈を受けた場合も含む)による不動産取得を知ってから3年以内に登記をしないと10万円以下の過料の対象
今まで相続登記するかどうかの義務はなかったのですが、法改正後に相続により不動産の所有権を取得した者は、相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の相続登記をしなければならず、10万円以下の過料の対象となります(改正後不動産登記法76条の2第1項、同法164条1項)。
これは、遺言などの遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も同様です。
法定相続分による法定相続登記を申請した後に、遺産分割が成立したときには、不動産を取得した者に対し、所有権移転登記の申請義務が課せられ、同様に義務の発生日から3年以内、違反の場合は10万円以下の過料というルールが設けられました(改正後不動産登記法76条の2第2項、同法164条1項)。
相続登記の義務化は、施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合にも適用されます。相続人は、施行日又は自己のために相続開始があったことを知り、かつ不動産の所有権を取得したことを知った日のいずれか遅い日から3年以内に相続登記を行う必要があります(改正法附則5条6項)。
2. 相続人申告登記制度(相続登記をする義務を免れる申告制度)の創設
速やかに相続登記をできない場合には、登記官に対し、相続人であることの申出をすれば相続登記をする義務は免れる制度(相続人申告登記)が設けられました(改正後不動産登記法76条の3第1項及び同条第2項)。この申出がされた場合には、法務局(登記官)が登記記録に申出をした者の氏名・住所などが記録されます。
ただし、この相続人申告登記は相続登記そのものではなく、被相続人から相続人に権利が移転したということを示すものでありません。相続に関する事実についての報告的な登記として位置付けられています(予備登記)。
3. 遺贈や法定相続登記後の遺産分割による更正登記が簡略化
遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)の所有権の移転の登記と法定相続登記後の遺産分割、相続放棄などの事由による所有権更正登記について不動産登記法上、他の相続人等との共同申請を求められていたものが簡略化されて、登記権利者が単独で申請することができるよう予定されています(現時点では通達は未制定)。
4. 住基ネットで、登記官が登記記録上の所有者が権利能力を有しないこと(死亡など)を把握した場合には、職権でその旨を登記記録に表示することができる
登記官は、定期的に住民基本台帳ネットワークシステムに照会を行い(改正後不動産登記法151条)、登記記録上の所有者が権利能力を有しないこと(死亡など)を把握した場合には、職権でその旨を登記記録に表示することができるようになりました(改正後不動産登記法76条の4)。
住所変更登記の義務化の改正のポイント
所有者の住所氏名変更登記の義務化に伴う改正ポイントは下記のとおりです。
1. 自然人、法人の住所氏名変更登記が義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象
不動産所有者の氏名、名称、住所等について変更があったときは、その変更があった日から2年以内に氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければなりません(改正後不動産登記法76条の5)。これに違反すると5万円以下の過料の対象となります。
住所等の変更登記の義務化は、施行日前の住所変更にも適用されます。この場合、施行日または住所等の変更日のいずれか遅い日から2年以内に当該変更に係る登記を行う必要があります(改正法附則5条7項)。
法務局への所有者の生年月日、海外居住者の連絡先の提供
通常の不動産登記に必要な情報に加えて、別途生年月日等の情報提供が義務付けられます。
詳細は下記のとおりです。
1. 不動産取得時に自然人は生年月日等の情報の提供が義務付けられる
改正法施工後に新たに所有権の登記名義人となる者は、登記申請時に氏名、住所の情報に加えて、生年月日等の情報の提供を求められます。個人の生年月日は登記記録上には公示されませんが、登記所内部において保有するデータとて取り扱われます。
そのデータは、法務局が他の公的機関から所有者の死亡に関する情報や氏名住所の変更した情報を取得するために活用されます。法務局に提出された氏名、住所、生年月日などの情報を元に住民基本台帳ネットワークシステムにおける定期的なデータ照会及び検索用のキーワードとして利用される予定です。
2. 商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記記録に記録される
所有者が会社など法人であるときは、商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記記録に記録されます(改正後不動産登記法73条の2第1項1号)。
3. 海外居住者は、その国内における連絡先(第三者も含む)を申告が必要。その連絡先が登記記録に記録される
不動産を取得する者が海外居住者の場合には、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称等の申告及び登記が必要となる予定です(改正後不動産登記法73条の2台1項2号、法務省令は現在未制定です)。
連絡先としては第三者も指定することができ、第三者の氏名又は名称、住所を登記することができます。第三者を連絡先として登記するためにはその第三者の承諾があること、そしてその第三者が国内に住所を有することが要件とされる予定です。
被害者保護のための住所情報の公開の見直し
登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合などの事由があるときは、その者からの申し出により、法務局から交付される登記事項証明書に住所を公開せず、住所に代わる事項を記載した登記事項証明書が交付されます(改正後不動産登記法119条6項)。
対象者の範囲は,法務省令で定められる予定ですが、
ア 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第1条第2項に規定する被害者 イ ストーカー行為等の規制等に関する法律第7条に規定するストーカー行為等の相手方 ウ 児童虐待の防止等に関する法律第2条に規定する児童虐待を受けた児童 エ 犯罪被害者であり,現住所を第三者に知られると加害者等から報復のおそれがある場合が該当するものとして考えられています(民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明201頁)。 |
所有不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書)が発行される
所有不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書)を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できるようになります(改正後不動産登記法119条の2)。
これまでは固定資産税課税明細(名寄せ)を各市区町村役場で取得することにより、対象者の所有不動産を把握するほか、不動産権利証を確認するなどで財産状況を確認していましたが、法務局で、所有財産一覧を発行してもらえるようになります。
しかし、実際には、住所と氏名が一致していなければ財産の紐づけができないため、現時点における登記記録上の住所氏名が変更されていないものがあるため、正確な情報を反映していません(民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明193頁)。そこで、当面は今までと同じ調査を併行し、名寄せと同じく所有不動産記録証明書は参考情報という形で利用することになると考えられています。
まとめ
繰り返しになりますが、この項目のまとめです。
①相続による不動産取得を知ったから3年以内に手続きを相続登記をしないと10万円以下の過料の対象となる
②住所変更登記も義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象になる
③義務化とセットで相続人申告登記や登記権利者のみの単独申請を認めるなど登記手続きの簡略化が予定されている
④不動産の所有権移転登記時に生年月日や海外居住者の連絡先の情報提供など連絡先確認のための情報の情報の提供が必要となる
⑤所有している不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書)を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できる
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