遺言が無効になるのはどんな場合でしょうか?

Q.遺言が無効になるのはどんな場合でしょうか?

A.遺言の形式別にみてみましょう。

1 自筆証書遺言の場合

(1)まず、自筆で記載することが必要です。

① パソコンやワープロなどで書いてある ×

ただし、2019年1月13日以降は、財産目録をパソコンやワープロでうち、全頁に署名・押印すればいいことになりました。

② レコーダーで録音したもの、ビデオなど ×

③ 遺言者以外が書いている、また2人以上の共同で書かれている ×

民法第975条(共同遺言の禁止)

「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と定めています。

 

(2)日付の記載が必要です。

④ 日付の記載がない ×

⑤ 「○○年吉日」など日付が特定できない ×

⑥ 遺言作成の日ではない日付が記載されている ×

 

(3)署名が必要です。

⑦ 署名がない ×

⑧ 遺言者以外が署名している ×

⑨ 相続する財産の内容が不明確な遺言書 ×

 

(4)財産目録は自筆でなくてもよいことになりましたが、全頁に署名と押印が必要です。署名と押印を欠くとその部分は無効です。

自筆証書遺言は、民法968条において、

第1項「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」

第2項(新設)「前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」

第3項 「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」

と定められています。

自筆証書遺言を残す場合は、専門化の助言を得ながら、慎重に作成しましょう。

2 公正証書遺言の場合

公正証書遺言は、公証役場で作成するため、最も確実な遺言書の作成方法です。

そのため、相続開始後に家庭裁判所の検認の手続を行うことなく、その内容を執行することができるという信頼性が高いものです。

それでも、無効となってしまうケースがあります。

 

① 遺言者に遺言能力がないのに作成されている場合

遺言書自体がいくら所定の書式に則った適切なものであっても、作成当時に遺言者に遺言能力がなかったことが証明されれば、その公正遺言書は無効となります。

 

例えば、最近の裁判例として、

東京地裁平成30年1月30日判決・判例秘書L07330202

 

亡Aの相続人の訴訟を承継したXらが,亡Aの養女で,自筆証書遺言及び公正証書遺言で同訴外人の遺産の全部を相続するとされたYに対し,遺言の無効確認を求めました。裁判所は,亡Aの精神状態に関するエピソードと本件各遺言との時的関係に照らし,各作成日の同人のアルツハイマー型認知症は,相当程度進行し,日常生活の基本的事柄を自律的に判断することも困難な程度に,著しく低下させていて,先行遺言を取消し,正面から抵触した本件各遺言をする能力はなかったとして,本件各遺言を無効と判断しました。

 

② 公正証書遺言は遺言者が記載したい内容を公証人に口頭で伝え、それを聞きながら公証人が遺言書を作成するよう定められています。これを「口授」といいます。

この「口授」の要件を満たさないで作成された場合、その公正遺言書は無効となります。

 

③ 公正証書遺言を作成する際には、必ず2名の証人を自分自身で手配しなければなりません。ただし、次に該当する人は証人になれません。

未成年者

推定相続人、受遺者及びその配偶者、直系血族

遺言を作成する公証人の配偶者、四親等内の親族、公証役場の職員

もしも、これらの人を証人として公正証書遺言を作成してしまうと、遺言書が無効となってしまう可能性があります。

例えば、

最高裁昭和47年5月25日判決・民集26巻4号747頁,判時670号39頁

「民法974条3号にいう『配偶者』には推定相続人の配偶者も含まれるものと解するのが相当であるところ、原審の確定した事実関係によれば、本件遺言公正証書の作成に立会した2人の証人のうちの1人である訴外大西米造は、遺言者仲川安太郎の長女である訴外大西アサヘの夫であるというのであるから、右公正証書は、同条所定の証人欠格事由のある者を証人として立会させて作成されたものといわなければならない。

したがつて、右遺言公正証書は遺言としての効力を有しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

 

3 秘密証書遺言の場合

秘密証書遺言は本人が署名・捺印をすればパソコンや代筆でもかまいません。ただし、自筆で全文を書いておけば、遺言が何らかの理由で秘密証書遺言として認められなかった場合でも(証人の資格がない人が証人になった場合など)、内容に不備がなければ自筆証書遺言として有効となります(民法971条)。遺言書を作成し終えたら封筒に入れ、捺印と同じ印鑑で封印します。

また、遺言書を封印する際、封筒の綴じ目に押印する必要がありますが、この印鑑は遺言書の本文に使用したものと同じでなければなりません。

もし別のものを使うと無効になります。

その後、遺言者は証人2人以上を連れて公証役場に行き、遺言書を公証人に提出します。その際、自分が遺言者である旨と氏名、住所を口頭で伝え、代筆してもらった場合は代筆者の氏名と住所も伝えます。公証人は遺言書が本人のものであることを確認し、遺言者の住所、氏名、日付を封書に記入し、遺言者、公証人、証人がそれぞれ署名、捺印します。

民法第970条は、次のように定めています。

第1項 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

一  遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。

二  遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。

三  遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。

四  公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

第2項 第968条第2項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

 

遺言能力がなくて無効になったり、法律上の適格性を欠く者が証人となって無効になることは公正証書遺言の場合と同様です。

4 遺言書が無効になった場合、一切の効力はなくなるのでしょうか

遺言書は厳格に書式が定められているので、形式上の不備がある場合は無効となります。

しかし、遺言書の内容が遺言者の真意であるにも関わらず、形式の不備によって全ての遺言を無効とすることは妥当ではありません。

遺言者と受遺者が生前に話し合って内容を確認していた場合には、遺言とは別に「死因贈与」の契約(「自分が死んだら、○○にこれをあげる」という約束)が成立していたものとして、遺言通りの内容が認められるケースがあります。

例えば、

広島高裁平成15年7月9日判決・判例秘書L05820618

「死因贈与は,遺贈と同様に死亡が効力発生要件とされているため,遺贈に関する規定が準用されるが(民法554条),死因贈与の方式については遺贈に関する規定の準用はないものと解される(最判昭和32年5月21日民集11巻5号732頁参照)。したがって,遺言書が方式違背により遺言としては無効な場合でも,死因贈与の意思表示の趣旨を含むと認められるときは,無効行為の転換として死因贈与の意思表示があったものと認められ,相手方のこれに対する承諾の事実が認められるときは,死因贈与の成立が肯定されると解せられる。

これを本件についてみると,前記認定のとおり,亡Dは,死期が迫っていることを悟り,死後自己所有の財産を,敢えて養子である原審原告を除外して,実子である原審被告らに取得させようと考え,本件遺言書を作成したのであり,その目的は,専ら,死亡時に所有財産を原審被告らに取得させるという点にあったこと,遺言という形式によったのは,法的知識に乏しい亡Dが遺言による方法しか思い付かなかったからであり,その形式にこだわる理由はなかったこと,そのため結局遺言としては無効な書面を作成するに至ったこと,亡Dは,本件遺言書の作成当日,Fを介し,受贈者である原審被告らにその内容を開示していること等の点にかんがみれば,本件遺言書は死因贈与の意思表示を含むものと認めるのが相当である。」

死因贈与として認められるためには、遺言者が受贈者に対して遺言の内容を伝えており、また受贈者がそれに対して承諾していることが認定されることが必要です。

もしも、贈与者が一方的に「あげるよ」と言っていただけで、受遺者がその内容を知らなかったような場合は死因贈与は成立しません。

贈与者と受遺者との間で意思の合致と、その証明が必要になります。

遺言として無効であるが死因贈与として効力が認められないかというケースの場合には、弁護士などの専門家に相談してみましょう。

この記事を担当した弁護士

弁護士法人ユスティティア 森本綜合法律事務所

所長弁護士 森本 精一

専門分野

相続、離婚など家事事件、交通事故被害者救済、企業法務

経歴

昭和60年に中央大学を卒業、昭和63年司法試験合格。平成3年に弁護士登録。

平成6年11月に長崎弁護士会に登録、森本精一法律事務所(現弁護士法人ユスティティア 森本綜合法律事務所)を開業。長崎県弁護士会の常議員や刑事弁護委員会委員長、綱紀委員会委員を歴任。平成23年から平成24年まで長崎県弁護士会会長、九州弁護士会連合会常務理事、日弁連理事を務める。平成25年に弁護士法人ユスティティアを設立し現在に至る。

現在も、日弁連業務委員会委員や長崎県弁護士協同組合理事などの弁護士会会務、諫早市情報公開審査委員委員長などの公務を務めており、長崎県の地域貢献に積極的な弁護士として活動している。

相続問題解決実績は地域でもトップレベルの300件を超える。弁護士歴約30年の経験から、依頼者への親身な対応が非常に評判となっている。

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