遺留分侵害額請求権の行使前後に、受遺者が目的物を譲渡してしまった場合、どうしたらいいでしょうか。

Q.遺留分侵害額請求権の行使前後に、受遺者が目的物を譲渡してしまった場合、どうしたらいいでしょうか。

A.2つの場合に分けて考察します。

1 遺留分侵害額請求前に、受贈者が贈与の目的物を第三者に贈与したり、第三者のために権利を設定した場合

(1)問題となるケース
被相続人甲、相続人が子乙、丙の2人で、丙が土地について生前贈与を受け、甲が死亡する前に第三者丁に売却しました。その後、甲が死亡し、乙が丙に対して遺留分侵害額請求をしたというケースではどうなるでしょうか。

(2)裁判所の考え方
最高裁は、遺留分侵害額請求権が行使されると、遺留分侵害額請求権に服する範囲で遺留分侵害行為の効力は消滅し、目的物上の権利は、当然に遺留分権利者に復帰するという考え方に立脚しています(形成権=物権的効果説。最高裁第一小法廷昭和41年7月14日判決・民集第20巻6号1183頁)。
(注) なお、この点は、今回の相続法の改正に伴い、遺留分限度額による物権的返還請求権とされていたものが、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する権利に変更されましたので注意が必要です(名称も「遺留分侵害額請求権」となりました。改正後の民法1046条。施行日は、2019年7月1日からです)。

(3) 以下は従来の最高裁の考え方からの説明です。
上記のような遺留分侵害額請求権の性質から考えると、遺留分侵害額請求によって遺留分を侵害する贈与の効力はその限度で消滅して、受贈者は無権利になります。

上記のケースでは、丙は無権利者となりますから、丙が目的物を第三者丁に譲渡したとしても、第三者丁は権利を取得することができません。
そうすると、乙が所有権を有することになりますので、乙から丁に対して物権的返還請求権を行使することができることになってしまうはずです。

しかし、それでは丁の取引の安全を害することになってしまい不合理です。

そこで、取引の安全を害さないよう、原則として、乙は丁に対して、物権的返還請求権を行使できないことにして、受贈者である丙が遺留分権利者乙に対して価格弁償をすべきとの規定が設けられています(民法1040条)。

したがって、遺留分侵害額請求権を行使前に、受遺者が目的物を譲渡してしまった場合、受遺者は、遺留分権利者に対しその目的物の価額を弁償しなければなりません(民法1040条1項本文)。

ただし、目的物の譲受人が譲渡時に遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は譲受人に対しても遺留分減殺を請求することができます(民法1040条1項但書)。

(4) 価格弁償の評価時点
目的物の価額の弁償について、いつの時点の評価額を価額弁償するかについては、、目的物の譲渡時(最高裁第三小法廷平成10年3月10日判決・民集第52巻2号319頁)とされています。

現物返還に代わる価額弁償の場合には、「現実に弁償がなされる時であり、遺留分権利者において当該価額弁償を請求する訴訟にあつては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時であると解するのが相当である。」とされていますが(最高裁第二小法廷昭和51年8月30日判決・民集第30巻7号768頁)、これとは異なります。

2 遺留分侵害額請求後に、受贈者が贈与の目的物を第三者に贈与したり、第三者のために権利を設定した場合

(1) 問題となるケース
被相続人甲、相続人が子乙、丙の2人で、丙が土地について生前贈与を受け、その後、甲が死亡し、乙が丙に対して遺留分侵害額請求をしました。遺留分侵害額請求後、丙は、第三者丁に売却しましたというケースではどうなるでしょうか。

(2) 民法1040条1項但書の適用はない
民法1040条1項但書では、譲受人に対する遺留分侵害額請求権の行使を認めていますが、当該規定は、遺留分侵害額請求権行使前に譲渡を受けた譲受人にのみ適用され、遺留分侵害額請求権行使後に譲渡を受けた第三者には適用はありません(最高裁第三小法廷昭和35年7月19日判決・民集14巻9号1779頁の原審判決である仙台高裁昭和33年2月28日判決・民集14巻9号1802頁参照)。

(3) 従来の最高裁判所の考え方からの説明
遺留分侵害額請求権が行使されると、遺留分侵害額請求権に服する範囲で遺留分侵害行為の効力は消滅し、目的物上の権利は当然に遺留分権利者に復帰すると考えられています。
そして、この遺留分侵害額請求権行使による所有権の復帰と、第三者への譲渡による所有権移転は対抗関係に立つと考えられています。
対抗関係とは、物権変動を法律上の利害関係がある第三者に主張できるかどうかの関係のことをいい、民法177条により、不動産の場合、対抗関係の優劣は、登記の早い者勝ちによって決まります。
したがって、目的物を譲受けた第三者が、先に不動産譲渡に関して登記を取得した場合、譲渡が優先し、遺留分権利者は、目的物の所有権を第三者に対して主張することはできません。

上記のケースでは、遺留分権利者である乙と第三取得者である丁とが対抗関係に立ち、乙と丁の優劣は登記を早く経由したものが優先することになります。
丁が先に所有権移転登記を経由している場合には、乙は丁に所有権を主張できません。

(4) 対応策
上記ケースでは、遺留分権利者乙としては、受遺者丙が第三者丁に譲渡することが見込まれる場合などには、事前に処分禁止の仮処分を申立て、受遺者丙から第三者丁への移転登記を禁止するという方法が考えられます。

(5) 受遺者に対する損害賠償請求が可能
遺留分権利者乙が第三者丁に対して遺留分侵害額請求をすることができない場合でも、受遺者丙に対しては、遺留分権利者が遺留分侵害額請求権の行使により取得した目的物を侵害したことによる不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが考えられます。

この記事を担当した弁護士

弁護士法人ユスティティア 森本綜合法律事務所

所長弁護士 森本 精一

専門分野

相続、離婚など家事事件、交通事故被害者救済、企業法務

経歴

昭和60年に中央大学を卒業、昭和63年司法試験合格。平成3年に弁護士登録。

平成6年11月に長崎弁護士会に登録、森本精一法律事務所(現弁護士法人ユスティティア 森本綜合法律事務所)を開業。長崎県弁護士会の常議員や刑事弁護委員会委員長、綱紀委員会委員を歴任。平成23年から平成24年まで長崎県弁護士会会長、九州弁護士会連合会常務理事、日弁連理事を務める。平成25年に弁護士法人ユスティティアを設立し現在に至る。

現在も、日弁連業務委員会委員や長崎県弁護士協同組合理事などの弁護士会会務、諫早市情報公開審査委員委員長などの公務を務めており、長崎県の地域貢献に積極的な弁護士として活動している。

相続問題解決実績は地域でもトップレベルの300件を超える。弁護士歴約30年の経験から、依頼者への親身な対応が非常に評判となっている。

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