遺言の作成で、死後の紛争を避けることは可能でしょうか?

Q.遺言の作成で、死後の紛争を避けることは可能でしょうか?

A.遺言を作成すれば、遺言を作成した人の意思を実現することができます。

1 まず、遺言で実現できることは何でしょうか。

1に、相続人間で遺産分割協議をすることが不要になります。
これは、遺言によって相続財産の分割方法を指定することになるためです。

第2に、法定相続の割合と異なる分割割合の指定をすることができます。
特定の人に法定相続の割合以上の相続財産を承継させることもできます。

第3に、法定相続人以外の方に対して遺産を残すことができます。
お子さんを介せず直接お孫さんにとか、甥・姪、お世話になった友人・知人、慈善団体への寄付など法定相続人以外に遺産を承継させることができます。

第4に、法定相続人が兄弟だけの場合、兄弟には最低取り分である遺留分がないので、遺言で記載した内容が最終意思になり、遺言をした人の意思が文字通り何の修正も受けず実現できます。

2 遺言の内容はできるだけ合理的に

ただし、その内容は合理的な内容にしておく必要があります。

内容が不合理であれば、死後の紛争が発生する可能性があります。不合理な内容の遺言書は、できるだけ避けた方が望ましいといえます。そのための主なポイントは3つです。

ポイント1:相続人間で分ける遺産のバランスに配慮する。

遺産の分け方のバランスが極端な遺言書を書いた場合、取り分の少ない相続人から最低取り分である遺留分を侵害したという請求が起きるおそれがあります。この場合、せっかく相続紛争を予防するために遺言書を書いたのに、遺留分を巡って相続人間で争いが起きることになってしまいます。
したがって、遺留分の問題が起きないように、相続人間のバランスを考慮した遺言書を作成することが考えられます。

実務上は、「長男は、すべての財産を相続取得する」という遺言を作成することが多く見られます。これには、上記のような問題があります。

それでも、このような遺言が多用されるのは、相続人の1人だけに老後の面倒をみてもらったとか、取り分の少ない相続人には生前多額の贈与をしたという事情がある場合が多いからです。そのような場合には、その旨を付記して敢えてアンバランスにすることも考えられます。
実務上多く見られる上記の例は、このような事情を反映しているものと思われますが、遺言書の表記だけでは判りかねる場合が多いので、その理由を後述のとおり付記という形で残しておけば、紛争防止に役立つことがあります。

ポイント2:対象となる財産は漏れがないように記載する。

遺言で漏れていた財産については、相続人間で遺産分割協議を行う必要があります。財産の漏れのない遺言書を書いておけば、遺産分割協議は不要であったにも関わらず、うっかり財産に漏れがあると、折角遺言書を作っていたのに、その財産だけのために遺産分割協議を行う手間が生じてしまいます。

不動産については、名寄帳で不動産に漏れがないか確認すると同時に、遺言の内容においても、その余の財産は誰々に遺贈するとしておけば、漏れは防げるでしょう。
財産を個別に指定したときには、新に取得した財産が出てきた場合には、遺言書を作成し直しおく必要があります。

ポイント3:不動産は複数の相続人に共有させるような内容にしない。

不動産を複数の人で共有させると後々のトラブルの種になる可能性があります。共有者の1人が反対すれば不動産を売却したり、建て替えたりすることができません。共有者間で意見が対立した場合に不動産の処分・管理に支障が生じてしまうことがあります。したがって、可能な限り不動産は共有ではなく、1人の相続人が単独で所有する内容の遺言書を書く必要があります。

3 遺言執行者を指定しておきましょう。

遺言書に記載された分け方のとおりに遺産を分配するには、遺産の名義変更を行う手続が必要になります。遺言内容を実現するために、相続人に代わってこの相続手続を行う者を「遺言執行者」といいます。

遺言書を書く場合、この遺言執行者を必ず指定しなければならないわけではありませんが、遺言執行者を指定しない場合には、相続手続を相続人自身が行わなければならず、重い手続負担を負担することになります。

また、遺言内容に不満を抱く相続人が居る場合などは、その他相続人が相続手続を行う際、様々なクレームを突き付けるなど、何とかして強引に遺言内容を変更しようと画策する事態も想定され、相続手続を巡ってトラブルが発生するおそれがあります。

このようなトラブルを避けるために、弁護士等専門家を遺言執行者に指定しておき、相続手続を進めてもらうのが非常に有効です。

信頼できる遺言執行者を指定しておけば、自分の書いた大切な遺言書の内容をスムーズに実現することができるとともに、残された相続人に手続の負担をかけないというメリットがあるので、遺言書を書く場合には、遺言執行者を指定しておくことが望ましいといえます。

4 遺産を残す相手が同年代の場合には、仮に相手が自分より先に亡くなっていた場合は、誰にという予備的な記載をしておきましょう。

遺言を残す相手が自分よりも先に亡くなった場合は,その部分は効力がないことになってしまいます。

例えば、相続人が兄弟だけであったとき、兄弟の年齢は近いので、自分よりも先に遺産を残す相手である兄弟が先に亡くなる可能性があります。その場合その部分は効力がないことになってしまうので、折角遺言を作成したのに、その部分については相続人間で遺産分割協議が必要になってしまいます。

そこで、例えば「弟に自宅の土地建物を相続させる。仮に弟が自分より先に亡くなっていた場合は、自宅の土地建物を甥(弟の長男)に相続させる。」として、遺言で財産を相続させる予定であった相続人が、仮に自分より先に亡くなってしまった場合のことを想定して、その場合に誰に財産を相続させるのかを指定しておくことができますので、そのような配慮をしておきましょう。

5 遺言の最後に、付記(付言事項)を残しておきましょう。

付記(付言事項)とは、遺言書の最後に自分の気持ちを書き記すメッセージです。単なるメッセージなので、遺言書の本文のような法的な効力はありません。

しかし、相続人の1人だけに老後の面倒をみてもらったとか、取り分の少ない相続人には生前多額の贈与をしたという事情がある場合にはこの付記を利用して、アンバランスにした理由を残しておく必要があります。これはアンバランスな遺言に対して多くもらうことになる相続人への遺留分侵害請求を避けるためです。

家族に対するこれまでの感謝のメッセージを書き記す場合や、葬祭関係等について自分の希望を記す場合もあります。

被相続人の最後のメッセージとして、遺言の内容に不満を持つ相続人が生じる可能性がある場合にも、付記(付言事項)で遺言内容の理由を説明したりして、納得を得られるように備えることも考えておくべきです。

この記事を担当した弁護士

弁護士法人ユスティティア 森本綜合法律事務所

所長弁護士 森本 精一

専門分野

相続、離婚など家事事件、交通事故被害者救済、企業法務

経歴

昭和60年に中央大学を卒業、昭和63年司法試験合格。平成3年に弁護士登録。

平成6年11月に長崎弁護士会に登録、森本精一法律事務所(現弁護士法人ユスティティア 森本綜合法律事務所)を開業。長崎県弁護士会の常議員や刑事弁護委員会委員長、綱紀委員会委員を歴任。平成23年から平成24年まで長崎県弁護士会会長、九州弁護士会連合会常務理事、日弁連理事を務める。平成25年に弁護士法人ユスティティアを設立し現在に至る。

現在も、日弁連業務委員会委員や長崎県弁護士協同組合理事などの弁護士会会務、諫早市情報公開審査委員委員長などの公務を務めており、長崎県の地域貢献に積極的な弁護士として活動している。

相続問題解決実績は地域でもトップレベルの300件を超える。弁護士歴約30年の経験から、依頼者への親身な対応が非常に評判となっている。

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