遺留分侵害額請求に対して、寄与分を主張できますか?
Q.遺留分侵害額請求に対して、寄与分を主張できますか?
遺言によって遺留分を侵害されている相続人が、遺留分侵害額請求権を行使してきた際、行使された側の相続人が、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした部分(寄与分)があるので、遺留分の算定の基礎となる遺産から寄与分を控除して欲しいと主張することはできるでしょうか。
A.できません。
「寄与分は、共同相続人間の協議により、協議が調わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであり、遺留分侵害額請求訴訟において抗弁として主張することは許されないと解するのが相当である。」とされています(東京高裁平成3年7月30日判決・民集50巻1号147頁)。
この東京高裁の上告審判決(最高裁第二小法廷平成8年1月26日判決・民集第50巻1号132頁)は、
「遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、また、民法は、遺留分侵害額請求を減殺請求をした者の遺留分を保全するに必要な限度で認め(1031条)、遺留分侵害額請求権を行使するか否か、これを放棄するか否かを遺留分権利者の意思にゆだね(1031条、1043条参照)、減殺の結果生ずる法律関係を、相続財産との関係としてではなく、請求者と受贈者、受遺者等との個別的な関係として規定する(1036条、1037条、1039条、1040条、1041条参照)など、遺留分侵害額請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者、受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される。
そして、遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないからである。」と判断しました。
遺留分侵害額請求の結果取り戻された財産が遺産分割の対象たる相続財産に復帰するか否かをめぐっては、従来争いがありましたが、この判決によれば、取り戻された財産は相続財産に復帰せず、減殺者と被減殺者とのいわゆる物権法上の共有になり、その共有関係の解消は共有物分割訴訟になるという点で決着が付いたことになります。
この記事を担当した弁護士
弁護士法人ユスティティア 森本綜合法律事務所
所長弁護士 森本 精一
専門分野
相続、離婚など家事事件、交通事故被害者救済、企業法務
経歴
昭和60年に中央大学を卒業、昭和63年司法試験合格。平成3年に弁護士登録。
平成6年11月に長崎弁護士会に登録、森本精一法律事務所(現弁護士法人ユスティティア 森本綜合法律事務所)を開業。長崎県弁護士会の常議員や刑事弁護委員会委員長、綱紀委員会委員を歴任。平成23年から平成24年まで長崎県弁護士会会長、九州弁護士会連合会常務理事、日弁連理事を務める。平成25年に弁護士法人ユスティティアを設立し現在に至る。
現在も、日弁連業務委員会委員や長崎県弁護士協同組合理事などの弁護士会会務、諫早市情報公開審査委員委員長などの公務を務めており、長崎県の地域貢献に積極的な弁護士として活動している。
相続問題解決実績は地域でもトップレベルの300件を超える。弁護士歴約30年の経験から、依頼者への親身な対応が非常に評判となっている。